前歯が噛み合わない人は要注意!奥歯がしみるのは前歯が原因?
- 2023.09.02
- 歯の不調を治したい
こんにちは、歯科医師の会田です。
今回は、症例をご紹介します。患者様は現役のドクターでした。年々、お医者様からも治療の相談を受ける機会が増えており、光栄に思っています。
この記事の目次
奥歯がしみる…虫歯ではなくオープンバイトと診断
患者様は30代の女性です。「奥歯がしみる」「くいしばりがひどい」「歯が削れていると言われた」というご相談でした。特に虫歯でもないのに、奥歯がしみる症状が強く、知覚過敏の薬を定期的に塗っているそうです。
そこで噛み合わせを確認してみると…写真を見ていただくとわかるように、上下の前歯が全然噛んでいません。この方は普段から、奥歯でしか噛んでいないのです。
これは、意外と多くの方がご存知ないのですが、奥歯しか噛まない=前歯が噛んでいないことは”普通”ではありません。
専門用語では「開咬(かいこう)別名:オープンバイト」と呼びます。
オープンバイトの状態では、奥歯に極端な負担がかかってしまい、奥歯に何かしらのトラブルが起きているケースが多く見受けられます。具体的には、以下のようなトラブルです。
・奥歯がしみる
・奥歯にヒビが入って虫歯治療を繰り返す
・奥歯だけ歯周病がすすむ、歯がぐらぐらする
・奥歯が削れている
・くいしばりがひどい
・エラが張る
・偏頭痛がある
・首肩の凝りがひどい …etc
奥歯だけ噛んでいる状態で起きうるトラブルは、たくさんあります。
しかし、多くの場合、歯科医院で「夜寝るときに使うマウスピースを作りましょうか?」と案内される程度にととどまり、根本的な解決がされていないように感じます。
(実際、夜間用マウスピースを作っても、患者様も面倒に感じてものの数週間で使わなくなる方が多いです)
今回の患者様も、夜間用のマウスピース(ナイトガード)を勧められたり、知覚過敏の薬を定期的に塗ったりしていましたが、根本的に治したいという理由で来院されました。
舌を持ち上げる筋力が弱いのが原因
なぜ、オープンバイトの状態になってしまったのでしょう?
調べてみると、こちらの患者様は、舌を持ち上げる筋力が弱いことがわかりました。これは、オープンバイトの症例に多く当てはまります。
舌を持ち上げる力は、歯科医院だと筋力測定装置で測ることができますし、ご自宅でも簡単に調べられます。
鏡で口の中を見たときに、舌のわきにギザギザと歯の圧痕がついていませんか?これは、舌の筋力が弱いサインなので、気をつけてください。また、普段ぼーっとしているときや、何か作業しているときなど、特に意識していないときは、舌先は上顎にくっついている状態が正常です。
しかし、筋力が弱いと、舌が下の前歯の裏側に位置付いていることが多いです。
また、食べ物を飲み込むときの、舌の位置も重要です。ゴクンと飲み込むときに、舌が上顎にくっついている状態が正常です。ところが、飲み込むときに舌を前歯に押し当てるような癖があると、前歯が噛み合わずオープンバイトになりやすいです。
これらは小さい頃からの習慣です。
では、なぜ舌の筋力が弱いとオープンバイトになりやすいのでしょう?
舌の筋力が弱く、本来なら上顎にくっつくはずが、普段から下の歯にべたーっとついてしまっていると、上顎の歯を横に広げる力があまり働きません。歯並び・噛み合わせは、口周りの筋力の影響で決まるので、舌の力が歯列に適切に加わらないと、頬の筋力に負けて狭い歯列になってしまいます。
本来は下記のように、歯の凸と凹が上手くはまり込んでいます。しかし、上顎の歯の位置が内側に入ってしまうと凸と凸が当たるようになり、正常な位置まで噛まなくなってしまいます。
上記の問題に対する予防のポイントは、過去の記事「子どもの口が弱っている!?親子でできるお口のトレーニング」に記載しております。
子供の頃、特に6~10歳の時期にお口の習癖をしっかり改善しておくと、美しくトラブルの少ないお顔と口元に成長しやすいです。
オープンバイトになって身体に影響を及ぼしている際の治療は、凸と凹が上手く咬む位置に歯を調整しながら、前歯が当たるところまで動かしていきます。
今回のケースでは幸い、天然の歯が多かったので、矯正治療を主体とした噛み合わせ治療を行いました。
マウスピース方の矯正装置で治療
スタート時
治療終了時
マウスピース型の矯正装置を用いて歯を動かしたところ、前歯を含め、全体的に噛み合うように整いました。
結果として、奥歯がしみる症状は落ち着いてきたとのことです。
後戻り防止のために、MFT(筋機能療法)を実践
オープンバイトの治療で大事なことは、後戻り防止です。
舌が正常ではない位置のままだったり、飲み込むときの癖が残っていると、また徐々に前歯が空いてきてしまいます。そのため、矯正治療と並行してMFT(筋機能療法)を行いました。
MFTとは簡単に言うと、口周りの筋肉の正しい使い方を習得するトレーニングです。
今回は、ガムトレーニングといって、ガムを上顎に貼り付けるようなトレーニングをメインで行いました。舌を持ち上げる筋肉を、効果的に鍛えることが可能です。
約1年半の治療終了時には、術前と比較して舌の筋力が22kPa → 34kPaに変化しました。
舌の圧力を測る「JMS舌圧測定器」
治療事例概要
治療内容:マウスピース矯正
治療期間:1年
治療回数:6回
治療費用:77万円(税込)
主な副作用・リスク
・矯正用マウスピース装着直後~3日間程度は、軽い痛みや違和感を覚える場合があります。
・矯正用マウスピースは長時間装着(1日18時間以上)していただく必要があります。
※装着時間が短くなると、治療計画通りには歯が動かない可能性があります。
・歯の移動に伴い歯茎が少し退縮したり、多少の歯根吸収が起きる可能性があります。
・かみ合わせや食いしばり、歯ぎしりが強すぎる方は、詰め物や被せ物が割れる可能性があります。
・日々変化するお口の中の状態に合わせて定期的な確認、調整を行わなかった場合、詰め物や被せ物の破損等が起きる可能性があります。
・口腔ケア(歯磨きなど)を怠った場合、虫歯や歯肉炎になる可能性があります。
オープンバイトは、根本的な治療が不可欠
今回はオープンバイトと呼ばれる噛み合わせの問題について紹介しました。
若い成人の患者様だと、オープンバイトに対する根本的な治療矯正+MFTを行うことが大半です。この場合、積極的な矯正治療が必要になるので、治療期間と治療費用の両面がネックになりますが、実は治療にはとても大きなメリットがあります。
もし、歯が削れたり痛くなったりするような進行性の問題を抱えている場合、放置してしまうと、より大掛かりな治療が必要になります。例えば、歯の神経を取ったり、割れてしまった歯を抜いてインプラント治療が必要になったりするなどです。
オープンバイトを根本的に治さないまま、壊れてしまった歯に詰め物や被せ物をしても、同様に壊れやすい状態が続きます。もし、その部分だけ守ろうとして負担を軽減するような治療をすれば、残りの数少ない奥歯に負担が分散されるので、他の歯がさらなるスピードで悪くなりやすいのです。
このような将来的問題を回避できるのが、今回の治療方法となります。
大事なことなので、もう一度お伝えします。下記のような症状がある方は、噛み合わせに問題があるので要チェックです。
・奥歯がしみる
・奥歯にヒビが入って虫歯治療を繰り返す
・奥歯だけ歯周病がすすむ、歯がぐらぐらする
・奥歯が削れている
・くいしばり、歯ぎしりがひどい
・エラが張る
・偏頭痛がある
・首肩の凝りがひどい …etc
たとえば6歳〜10歳などの若いうちであれば、お口の習癖の改善だけで、正しく噛める綺麗な歯列が獲得できる可能性もあります。子供のうちから、虫歯だけでなく、噛み合わせや習癖のチェックもすることが、とても大事です。
自覚症状がなくても、悪化しはじめのサインを読み取って説明してくれる歯科医師がいるところは、良い予防歯科ができる歯科医院だと思います。
ぜひ、皆さんからも歯科医師へ積極的に質問を投げかけてみましょう。
下記ページもご覧ください。
噛み合わせ|歯科医師会田の噛み合わせメディア〜カムシル〜
子どもの口が弱っている!?親子でできるお口のトレーニング|歯科医師会田の噛み合わせメディア〜カムシル〜
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歯科医師 会田光一