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姿勢と噛み合わせや歯並びの意外な関係
- 2022.06.05
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この記事の目次
噛み合わせや歯並びには「姿勢」が影響している
噛み合わせや歯並びの問題は、遺伝が原因だと思っている方も多いのではないでしょうか?
しかし、本当に遺伝が原因になっていることは、とても稀です。圧倒的に多いのは「身体の姿勢の崩れ」であり、それを引き起こすさまざまな環境要因が問題なのです。
このことは、顔面の発育の研究により、何年も前から分かっていました。しかし、歯並びや噛み合わせの問題があった際に、みなさんが歯科医院でそのような説明を受けることは、ほとんどないのではと感じています。
その理由の一つに、歯科矯正の世界では「乱れた歯をいかに治すか」に焦点を当てているから、ということが挙げられます。あくまでも“治療”という視点で考えるためです。
今でこそ予防医学が推進されて、「そもそもなぜ歯が乱れるのか?」を考える文化が、医療業界に少しずつ広がっています。
しかし歯科医師が受ける教育は、学生時代から「治療の手順」第一なので、根本原因の改善までは、なかなか目が向かないのです。
では、姿勢を崩す環境要因とは何でしょうか。
噛み合わせと歯並びが悪くなる原因のひとつは「猫背」や「反り腰」
歯並びを悪化させる要因のひとつに「口呼吸」や「低位舌」があると言われていますが、これも真の原因ではありません。
「猫背」や「反り腰」といった姿勢の崩れを改善することで、結果的に「口呼吸」や「低位舌」の問題も解決できます。
私の経験的に、いくら歯科矯正の治療を施しても、なかなかいい結果が出なかったり、あっという間に後戻りしたりするケースでは、根本原因である「姿勢の崩れ」がそのままになっていることが多々あります。
背骨のカーブに注目しよう
なぜ、姿勢の崩れが歯並びに影響を与えるのでしょうか。
まず、姿勢を決定づける背骨(脊椎)のカーブについてみてみましょう。
脊椎は頚椎、胸椎、腰椎、仙椎に分かれて構成されていますが、通常はS字カーブを描いています。
しかし、脊椎のS字カーブが消失した「平背」の状態になると、痩せていてもお腹がぽっこりと出てしまいます。これは現代人の多くに見られ、空気を呑み込んでしまう呑気症(どんきしょう)などを引き起こしやすくなります。
反対に、脊椎のS字カーブが強まった「猫背」の姿勢でも、顎が上がって軟口蓋や口蓋扁桃が下がることで、内臓下垂が起こります。内臓下垂は腸の動きを悪くするため、便秘や腸内環境の悪化につながることもあります。
私は日々の歯科診療で、過敏性腸症候群(慢性的なお腹の不調)を抱える患者様に多くお会いします。歩く姿、座っている姿を観察すると、姿勢に問題がある患者様が非常に多いです。
多くの方は背中が曲がり、頭が前方に出て、巻き肩(肩が前に出て内側にねじれた状態)になっています。
そのような姿勢が続くと、下顎が筋肉により後ろ向きに引っ張られてしまい、前向きに成長しません。顎がしっかり成長しないと、口腔内で歯が並ぶスペースが十分にできません。それだけでなく、舌の置き場も狭くなり苦しくなってしまうので、無意識に口を開けて呼吸する「口呼吸」の癖がついてしまいます。
歯並びと姿勢の関係は、さまざまな方向から研究されています。下記のその一例をご紹介します。
良い噛み合わせと歯並びのために気をつけたい「口呼吸」と「低位舌」
先にも少し述べましたが、もちろん「口呼吸」や「舌の筋力不足」も、歯並びが悪くなる原因になってきます。
「口呼吸」は文字通り、鼻ではなく無意識のうちに口で呼吸する習慣です。
「舌の筋力不足」とは舌を支える筋肉が衰え、安静時に舌の収まる位置が下がってしまった状態です。低位舌(ていいぜつ)とも言います。
筋肉が衰えて軟口蓋や口蓋扁桃が下がると、気道が狭くなります。このため口を開けて、舌を押し下げて気道を確保しようとします。これが低位舌と口呼吸の関係です。
低位舌になると、舌の根元で気道が狭くなるため、睡眠時無呼吸症候群を発症する原因になります。他にも顎関節症や歯並びの悪さを引き起こし、ひどくなると日中も呼吸しづらく感じることがあります。
本来であれば、舌はしっかりと持ち上げられて、普段から上顎にくっついています。舌の力を利用して上の歯が横へ広がり、歯並びのアーチはきれいなU字型になります。
しかし舌の力が正しく働かないと、歯並びは上下とも横にしっかり広がらず、口腔内のスペースが足りなくなって歯が並びきれなくなってしまいます。その結果、狭いV字状の歯並びが形成されるのです。
上顎がしっかり広がらないと鼻の通りも悪くなってしまい、花粉症やアレルギー鼻炎の原因にもなります。
舌が動くと、歯には約2kgの力がかかると言われています。舌が正しくない動きをすると、歯にも正常ではない力が1日に2,000回〜4,000回も加わるため、歯並びが崩れてしまいます。
また、食べ物や飲み物を飲み込む際も、本来、舌は上顎にくっついています。
しかし低位舌と口呼吸が習慣になると、飲み込むときに舌を前方に突出して飲む、いわゆる「逆嚥下」の癖がいつまでも残ってしまいます。
「口呼吸」と「低位舌」を防ぐには
以下の状態だと軟口蓋や口蓋扁桃が下がって、口呼吸・低位舌になるので気をつけましょう。
- ● S字カーブが正常な形ではなくなっている
- ● 足の踵のほうに体重がかかり、足指がつかない後方に重心が寄っている
- ● 重力に負けて背中の曲がった姿勢で、長時間椅子に座る
- ● 猫背や平背の姿勢で、パソコンやスマートフォンを長時間操作する
これらの姿勢ではすべて、頭が前に出て視線が下がり、顎を突き出した状態が続きます。それにより軟口蓋や口蓋扁桃、舌の位置が下がってしまいます。
噛み合わせと歯並びをよくするために大切なのは、根本原因を考えた治療
このように、噛み合わせと歯並びは、実は姿勢に大きく影響を受けています。
これらを考えずに歯の位置や形を無理矢理治してしまうと、後戻りをしたり、別のトラブルを引き起こしてしまうのです。
しかし逆に考えると、噛み合わせや歯並びの乱れがあることは、姿勢に問題があることを教えてくれているのです。
大切なのは「なぜ、今の状態になったのか」と、根本原因を考えて治療することです。
噛み合わせや歯並びでお悩みの方は、歯科医師会田にLINEで相談してみませんか。
歯科医師 会田光一