噛み合わせ

なぜ噛み合わせが大切なのか

なぜ噛み合わせなのでしょうか

お口の健康は身体の健康の源であるという話は、これを読んでいらっしゃる皆さんもどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか?

虫歯や歯周病は予防するもの、という考えが広がるとともに、世の中には口腔ケアの意識の高い方が増え、かつてのようにたくさん虫歯がある方は減ってきています。その一方で、歯医者通いがなかなか終わらない方、治療しているのにトラブルをくり返す方、顎関節症になる方、虫歯ではないのに歯が欠けたり割れたりする方があとを絶ちません。

なぜ噛み合わせなのでしょうか

皆さんが歯科医院を受診する原因の99%以上は「口の中の細菌」と「噛み合わせ」の問題です。毎日の歯磨きや歯科医院での定期的なクリーニングは、「口の中の細菌」を減らすことに有効です。それは多くの方に認識されています。

それでは、「噛み合わせ」に対してはどのようにするのが良いのでしょう?
そもそも「正しい噛み合わせ」とは、どういう状態なのでしょうか?
「悪い噛み合わせ」はどういったトラブルを引き起こすのでしょう?

今の日本では、多くの方は噛み合わせについての知識がなく、また歯科医師も十分にそれを皆さんに周知できていないように感じています。
このページでは、「噛み合わせ」が健康にどう影響しているかを知っていただきます。それが「自分の健康を自分でコントロールする」大切な第一歩になればと考えています。

噛み合わせとは

「噛み合わせとは」

そもそも噛み合わせとは、正確には上下の歯の接触の仕方のことです。
人の歯は上顎に対して下顎が動きます。

  • まっすぐカチカチ噛んだときにどのように歯が接触するのか
  • 歯ぎしりをするように左右に動かしたときにどのように接触するのか
  • 食べ物を咀嚼しようとしたときにどのように接触するのか

といったものが噛み合わせです。

紛らわしいのが「歯並び」です。歯並びとは文字通り「歯がどのように並んでいるのか」ですが、歯並びにより上下の歯の接触に違いがみられます。歯並びは噛み合わせにとても大きな影響を与えます。

しかし一般の方は、噛み合わせと歯並びの違いを意識することはあまりないと思いますので、当メディアでは分かりやすさを優先して、あえて細かく分類しないで使っていきます。

「噛み合わせとは」

噛み合わせは下記の4つの構成要素から成り立ちます。

  • 顎関節
  • 噛む筋肉(咀嚼筋)
  • 奥歯
  • 前歯

顎関節を起点に、噛む筋肉が動いて、働きの違う奥歯と前歯が接触し、噛む力を分散させたり、受け止めたりといった具合に連動します。
本来、噛み合わせはこの4つの構成要素が円滑に連動してバランスを取るので、大きな負担が一部分にだけかかることはありません。過度の負担がかからなければトラブルの引き金にもなりません。

噛み合わせのバランスがくずれると様々なトラブルにつながります

では、噛み合わせのバランスがくずれるとどんなトラブルにつながるのでしょうか?

例えば、歯医者さんで噛み合わせのバランスに悪影響を与える噛み合わせが高い被せ物が奥歯に入ったとします。どのようなことが起きるか想像できますか?

  • 熱い物や、冷たい物がしみる
  • 噛むと痛い
  • 歯を支える骨に大きな負担がかかり、歯が揺れる
  • 歯が削れる
  • その歯だけでなく他の詰め物や被せ物も割れる
  • 高さがある歯が先に強く当たって痛い
  • 高さがある歯が先に当たって痛むのを避けるために、噛み合わせが「ずれ」て、そのまま定着してしまう
  • 噛み合わせが「ずれる」と、本来当たらない歯が他の歯を肩代わりして壊れる
  • 噛むための筋肉に痛みが生じる
  • 顎関節に負担がかかるので、「顎関節で音が鳴る」「口が開きにくくなる」などの顎関節症になる

などなど挙げるときりがありません。このすべてが、たった一つの高さの合わない被せ物によって起きる可能性があるのです。わずかな高さの「ずれ」、複数の歯をまとめて治療したために生じた気づきにくい「ずれ」、だんだんと歯並びが変化して知らずに生じていた「ずれ」など、きっかけとなるできごとはたくさんあります。

「噛み合わせとは」

知識がまったくないと、「少し違和感があるけれどそのうち慣れるだろう」、「自分は歯が弱いからしょうがない」、「歯並びが少し変化してきた気がするけどそんなに気にならないからいいや」などと見過ごされやすいのです。

今の日本では、歯磨きをしない人はあまりいないと思いますが、もう一つのトラブルの大きな要因の「噛み合わせ」の問題について、皆さんはどれだけ知っているでしょうか?

正しい「噛み合わせ」とは

では、そもそも正しい噛み合わせとはどのような状態なのでしょうか?

正しい噛み合わせの基本
  • 正しい顎の位置でカチッと噛んだとき、全体の歯が均一に接触する
  • ギリギリ歯ぎしりをするような動きや下顎を前に出すような動きのとき、前歯しか当たらない

この2つの状態がポイントです。それぞれ説明します。

(1) 正しい顎の位置でカチッと噛んだとき、全体の歯が均一に接触する

正しい顎の位置で噛んだときに全体が均一に接触すると、奥歯がしっかりと力を支えてくれます。複数の短い根がある奥歯は垂直的な力に強いのです。逆に根が細長い前歯は垂直的な力には少し弱めです。そのため、全体が均一に当たることで奥歯が支えとなって前歯を守ります。

(2) ギリギリ歯ぎしりをするような動きや下顎を前に出すような動きのとき、前歯しか当たらない

これは顎を前後左右に動かしたときの歯の接触の話です。このときには、基本的に奥歯同士は触れ合わず、上下の前歯だけが擦れ合います。実は(1)とは逆に、根が細長い前歯は横揺れには強い抵抗力がありますが、根の短い奥歯は横揺れの力には弱いのです。

さらに、私たちの身体には筋力を反射的に調整するセンサーがいたる所にあります。そのセンサーの作用で、前歯だけで噛んでいる分には歯には強い力が加わりません。強い噛む力が発揮されるのは、あくまでも奥歯が噛んでいるときだけなのです。そのため、前後左右に動かしたときに前歯だけが接触していれば前歯が壊れるほどの力は加わらないのです。

この(1)(2)によって、一部に過度な負担がかからないように歯は構成されています。

正しい噛み合わせは正しい顎の位置で噛むことが前提です

先ほど噛み合わせは4つの構成要素、顎関節、噛む筋肉(咀嚼筋)、歯、歯を支える骨(歯槽骨)から成り立ちますとお話しました。

正しい噛み合わせは正しい顎の位置で噛むことが前提です

まず、上記の(1)(2)の正しい噛み合わせの基本は、あくまでも正しい顎の位置で噛んだときという大前提があります。噛むという動作では、下顎は顎関節を軸に動くので、軸が正しい位置に収まった状態でカチッと全体で噛めることが大事です。

ずれた軸に負担がかかれば、顎関節やまわりの噛む筋肉に無理な負担がかかり、そのダメージの蓄積により関節の変形や筋肉痛を招きます。関節が変形すると顎がガクガク鳴ったり、口が開きにくくなったりします。筋肉痛は頭痛や首肩のコリ、顎まわりの重苦しさを起こすのです。不必要な筋トレを行なっているのと同じ状態なので、筋肉が大きくなって顔が大きく見えてしまう方もいらっしゃいます。

正しい噛み合わせは正しい顎の位置で噛むことが前提です

そして、歯と歯を支える骨ですが、一部に過度な負担がかかれば歯やそこに入っている詰め物、被せ物が削れたり、割れたり、欠けたりします。また歯を支える骨が弱って歯がぐらついたり、逆に肥大といって骨が分厚く大きくなったり、治療時に麻酔が効きにくいなどの支障が生じることもあるのです。

すべての問題が必ず起きるわけではありません。負担がかかったときに弱いところにトラブルが起きるという特徴があります。比較的華奢(きゃしゃ)な女性では、顎関節に症状が出やすい傾向があり、噛む力の強い男性は関節のトラブルは起きにくい反面、歯が削れやすいなど、人によってさまざまです。

大切なのは、ご自身の噛み合わせの状態をよく理解しておくことと、トラブルが起きる前に何かしらの予防が必要かどうか、定期的に歯科医師とコミュニケーションをとることです。

歯並びと噛み合わせ

歯並びと噛み合わせ

歯並びは噛み合わせに大きな影響を与えます。
出っ歯、でこぼこ、受け口、八重歯、口ごぼ……など不正咬合と言われる歯並びはありますが、どれも本来あるべき噛み合わせの状態を妨げてしまいます。
だからといってすべての人に治療が必要というわけではありません。トラブルが起きるのは、その人の許容範囲を超えて問題が積み重なった結果です。そのため、定期検診などでトラブルにいたる前のサインのチェックを受け、アドバイスしてもらうことがおすすめです。

そして現在では、歯並びは遺伝的な要因よりも、圧倒的に生活習慣や癖に影響されることがわかっています。身体の姿勢や、呼吸の仕方、飲み方、食べ方、口まわりの筋肉の使い方……など、生まれてから、とくに成長期までにどのようにしていたかが人の歯並びをある程度決定づけるのです。

大人になってから問題を解決しようとすると、積極的な矯正治療を行ったり、過去に詰めたり被せたりした治療部位にまた手を加えたりしなければならない症例でも、小児期であれば生活習慣と癖の改善をメインにすることで自然とよい噛み合わせ・歯並びをつくれる可能性があるのです。

歯並びと噛み合わせ

もちろん、大人でも透明なマウスピースを使う負担の少ない矯正治療方法があります。しかし、「何のために治すのか」によって同じマウスピースやワイヤーといった道具を使っても結果は異なります。つまり、見た目だけ綺麗に整えばよいのか、正しい噛み合わせを得るために治しているのかという違いです。

現在は術前のシミュレーション技術も進歩しています。何が問題で、何のために、どうすればよいのかを治療を受ける側と提供する側の双方でコミュニケーションを取ることが重要です。ただ、どうしても治療を提供する側が知識的に有利になりやすいので、少しでも情報の格差をなくすために当メディア「カムシル」をご利用いただけると幸いです。

噛み合わせの治療

噛み合わせの治療

噛み合わせに問題があり、「トラブルがすでに起きている」または「このままではトラブルへと進行していく」と認められた場合は治療を検討する必要があります。噛み合わせに関わる治療の選択肢は、大きく分けて以下の5つです。

  • 習癖の改善
  • 歯の形の微調整
  • 歯の位置の変更(矯正治療)
  • 詰める・被せる・貼りつける(修復治療)
  • 顎の骨の手術(大きな外科治療)

多くの場合は(1)~(4)の組み合わせで、治療効果の高さ、身体への負担の少なさ、確実性などを考慮して患者様と相談して決めます。噛み合わせの治療で大事なことは正確な診査、記録にもとづいて問題点を明らかにしたうえで計画を立てること、そして予めしっかりとゴールを設定することです。

噛み合わせの治療

これまで多くの患者様とお話して気づいたことは、「将来的にどのような状態になっていくかわかっていないまま治療を受けた方」や「悪い部分を表面的に治療しているだけで原因について医師と話をしないまま治療をした方」がとても多いことです。ゴールがわからないと、治っていない状態で治療を中断してしまい、かえって状態を悪くすることもしばしばあります。

また、原因について明確なアプローチがないまま治療を進めると再発をくり返して、時間・お金・肉体的な負担が増えてしまいます。それは、噛み合わせの治療に限らず他の歯科治療においても同じことが言えます。

どの治療を選択するにせよ、ご自身が「なぜ今の状態になったのだろう」「今後何をして、どういうゴールに向かっていくのか」という2点を知っておくことは、自身の選択を後悔のないものにするためにとても大切です。

ここまで、世界基準の歯科臨床理論を一般の方向けにわかりやすくご説明いたしました。自分で自分を守る真の予防医療につなげていただけると嬉しく思います。

Peter E.Dawson 著/小出馨 監訳「Dawson Functional Occlusion(ファンクショナル・オクルージョン)」2010年6月発行