口腔機能発達不全症とは?徹底解説!

  • 2022.08.23
  • お子さまの口育

離乳食を食べる子どもの画像|口腔機能発達不全症とは?徹底解説!|歯科医師会田の噛み合わせメディア-カムシル

不健康の入り口?口腔機能発達不全症とは

みなさんは「口腔機能発達不全症」という言葉を聞いたことはありますか?

日本ではここ10年くらい、上手く噛めない、飲み込めない、発音(構音)がおかしい、口呼吸をする、いびきをかくなど、お口の機能に何らかの問題を持っている子どもが増えています。お口の発達が不十分のまま成長してしまうと、生涯にわたって全身にさまざまな悪影響を及ぼします。

国はそういった現状を問題だと捉え、2018年に「口腔機能発達不全症」という病名をつけて、歯科医師や歯科衛生士、管理栄養士らのもとできちんと治療しましょうという方針を示しました。2022年には、口腔機能発達不全症の治療の保険適用対象年齢が、15歳未満から18歳未満と3歳拡大されました。
(同時に「口腔機能低下症」の保険適用の対象年齢は、65歳以上から50歳以上に大幅に引き下げられました)

この対象年齢拡大の見直しには、全身の健康に大きな悪影響を及ぼす口腔機能発達不全症を、できる限り早期に食い止めたい、という思いが反映されています。

口を開けて笑う乳児の画像|口腔機能発達不全症とは?徹底解説!|歯科医師会田の噛み合わせメディア-カムシル

口腔機能発達不全症の定義

口腔機能の「食べる機能」「話す機能」または「呼吸する機能」が十分に発達していないか、正常(定型的)に機能獲得ができていない状態であること。かつ、明らかな原因疾患がなく、 口腔機能の発達に影響を及ぼしている個人因子あるいは環境因子に対して、専門的な関与が必要な状態を示します。

参照:日本歯科医学会 小児の口腔機能発達評価マニュアル

現代人の生活環境と、口腔機能・形態の変化

長い歴史の中で、現代ほど急速に生活環境が変化した時代はありません。

例えば車やバスなど乗り物の普及により、歩く距離や身体を動かす時間は、意図的に取ろうとしない限り明らかに減少しています。日常生活でも、技術の進歩で便利さが追求されるとともに「蛇口を開け閉めする」「ドアノブを回す」といった、ちょっとした筋力を使う場面も失われています。

現代人の筋力は、過去の統計に比べて弱くなっている、いわゆる「虚弱状態」だと聞いたことがある方も、おられるのではないでしょうか。

この問題は、筋力だけに留まりません。筋力低下は私たちの骨格の成長・形態にも大きな影響を及ぼします。筋力が落ちることで徐々に骨格が変化して、本来持ち合わせていた身体能力を失い、多くの健康トラブルを招く可能性があるのです。

白い歯を見せて笑う子どもの画像|口腔機能発達不全症とは?徹底解説!|歯科医師会田の噛み合わせメディア-カムシル

口腔機能発達不全症は、顎の骨=顔の作りにも悪影響を与えます。

一般的に、顔まわり・口周りの筋肉を正しく使うことで、上顎の骨の成長が促されるとされています。上顎の成長に伴い、下顎も成長していきます。下顎の歯が倒れたり、並びきらなかったりという状態を防ぐには、実は上顎の成長が重要な役割を担っているのです。

日本大学松戸歯学部の研究論文では、縄文人と現代人の顎の骨を調べた結果、現代の日本人は上下の顎ともに成長の不足がみられると指摘しています。

参照:日本大学松戸歯学部下顎隆起の成因に関する総合的研究

その原因は前述したような、時代の変化に伴う生活習慣の変移によるとも言及されています。もちろんその中には環境因子だけでなく、よく噛まないで食べるので咀嚼による刺激が減った、などの個人因子も含まれます。

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海外では、1900年代にイギリスの歯科医師・John Mew先生が、「姿勢」や「呼吸」を含めた正常な口腔機能獲得と顔面の成長について、生涯をかけて研究・教育をされました。この研究結果は今でも同分野の学問のベースとなっており、現代の子どもたちには猫背・胸で浅い呼吸をする子がとても多い、と言われています。

「姿勢と噛み合わせや歯並びの意外な関係」で説明したように、一見するとお口の発達とは関係なさそうに見える事柄が、子どもたちの成長に大きく関わっているのです。

便利になった生活環境は、簡単には変えられません。だからこそ、どんな生活習慣を取り入れるべきか自分で意識的に選ばなければ、健康は維持できません。

口腔機能発達不全症は早期発見がカギ

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口腔機能の発達は個人差があるので、多様な支援が必要です。歯科はもちろんですが、産科医、小児科医、助産師や作業療法士といった専門職、行政、保育所、幼稚園、学校歯科との連携が重要になります。

そして何より大切なのは、本人と家族が「あれ?」という違和感に早めに気付いて行動することです。

最近の日本人は、虫歯がある方は急速に減少しており、虫歯予防に関心の高い方が多いです。しかし一方で、口腔機能発達不全症であることには、本人も家族も気付いていない傾向があります。

口腔機能発達不全症を患っていると、噛み合わせや歯並びが悪くなる、栄養摂取が不十分、口呼吸になるなどの症状が現れます。

また、口腔機能発達不全症のまま成長すると、呼吸の悪化によって学習や運動のパフォーマンスが低下したり容姿などに影響が出たりするだけでなく、成人してから生活習慣病になる割合が高くなり、高齢期には歯の欠損リスクや全身の健康リスクが高まる…というように、まるで“ドミノ倒し”のように悪影響が続きます。

メタボリックドミノの図|「お口の問題」と「身体の不調や病気」はつながっている!?|歯科医師会田の噛み合わせメディア-カムシル

(図1)メタボリックドミノと先制医療「日本内科学会雑誌 107 巻 9 号」より

詳しくは「『お口の問題』と『身体の不調や病気』はつながっている!?」をご覧ください。

口腔機能発達不全症セルフチェック

お口の発達は、母体の胎内での姿勢や指しゃぶりなどから始まり、授乳、離乳食を経て通常食へ移行する間に育っていきます。特に離乳食が完了する生後18ヶ月前後は「乳児嚥下から成人嚥下の移行完了」の大事な時期です。この時のチェックポイントは、下記の3点です。

・口呼吸になっていないか
・舌が突き出ていないか
・食べ物を丸呑みしていないか

もしこの3つに当てはまる場合は、幼児食への移行を慎重に行なう必要があります。

離乳食を食べさせる母親と子どもの画像|口腔機能発達不全症とは?徹底解説!|歯科医師会田の噛み合わせメディア-カムシル

また、「口腔機能発達不全症かも?」と思ったときの、簡単なセルフチェック方法をご紹介します。

スプーンに固形の食べ物をすくい、お子さまの下唇にそっと乗せてみてください。スプーンは床に水平のまま、ただ置くだけです。置いたらスプーンは動かしたり傾けたりしないでください。お子さまが上唇を使ってスプーンを口に含み、食べ物をお口の中に取り込めるか確認してみてください。次のような動きが見られたら、「口腔機能発達不全症」の傾向があります。

・上唇をうまく使って取り込めない
・舌が前に出てしまう
・吸うように食べ物を取る
・下を向いて頭全体で食べ物を取る

その他、「口腔機能発達不全症」の特徴やトレーニングなどについては、「子どもの口が弱っている!?親子でできるお口のトレーニング」で詳しく説明しているので、ご覧ください。

口腔機能発達不全症による健康への影響

ここで、口腔機能発達不全症による全身の健康への影響について、具体的にお話しします。お口の機能である「食べる」「話す」「呼吸する」に分けて説明します。

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■食べる機能
「食べる機能」をさらに4つに分けて、それぞれが十分に発達していない場合の、全身の健康への影響について細かく見ていきましょう。

1)咀嚼機能(噛む機能)
うまく噛めない
→摂取できる食品が制限される、栄養不良等などの全身問題につながる可能性があります。

2)嚥下機能(飲み込む機能)
飲み込みが習得されていない(舌を上に上げて、食べ物をつぶして咽頭に送り込む)
→舌の癖により、歯並びや噛み合わせ、口唇閉鎖機能の発達を抑制する可能性があります。

3)栄養(体格)
咀嚼機能や嚥下機能の不全
→必要栄養量が十分に確保できない「痩せ」の状態になる。あるいは咀嚼せず丸のみ・早食いをして「肥満」の状態になる場合もあります。

4)食行動
食行動とは「食品の購入、調理、意思決定など、食事に関わる一連の行動」のことです。食行動に関する問題は、個人因子と環境因子が複雑に絡み合って生じます。

早食い、偏食、過食、生活リズムの乱れ、おやつの食べ過ぎ、味付けの濃薄など
→本人はもとより、家族の困りごとや悩みごとにも直結するため、生活全般に影響を及ぼします。

■話す機能
次の4つの特徴がないか確認してみましょう。

・発音に障害がある(カ・サ・タ・ナ・ラ行など)
・口唇が開いている
・3歳以降も指しゃぶり、唇を吸ったり噛んだりする、舌を突き出すなどの癖がある
・舌小帯(舌の裏側のヒダ)に異常がある

→話す機能は、口腔機能の問題だけでなく認知機能発達とも密接に関連しています。そのため、発声の問題はコミュニケーションや学校等での学習面にも影響を及ぼします。

■呼吸する機能
口呼吸をしていると、次のような悪影響を及ぼします。
→口腔乾燥、虫歯、歯周病、容姿、歯並び・噛み合わせの悪化など口腔機能の発達に影響を及ぼします。
また、風邪をひきやすい、姿勢の不良、いびき、睡眠時無呼吸症候群、集中力の低下など、全身へ影響する可能性もあります。

参照:日本歯科医学会 小児の口腔機能発達評価マニュアル

口腔機能発達不全症の診断

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1歳半以降は口腔機能の正常発達の基礎要件として「虫歯がないこと」が前提となります。

その上で一般的に、下記の「食べる機能」を含む3つ以上の項目にチェックがつくと、保険医療における口腔機能発達不全症の診断がつき、指導の対象となります。条件を満たしていれば、生後0ヶ月から歯科医院で保険管理が行えます。

※歯科医師による診断が必要です

1.食べる機能
・歯がちゃんと生えているか
・歯並びの異常がないか
・3歳以降はきちんと噛めるか、食べ物を噛んでいる時間が適切か、片噛みの癖がないか
・飲み込むときに舌を出さないか
・食べる量は適切か

2.話す機能
・きちんと発音できているか
・普段から唇を閉じられているか
・舌小帯などに機能的な問題はないか

3.呼吸と栄養状態を含むその他の機能
・極端に痩せていないか、肥っていないか
・口呼吸やいびきがないか
・扁桃の肥大がないか

口腔機能発達不全症の治療

基本的には専門家の指導のもと、口腔機能発達不全症を改善するトレーニングを行います。お家で実践できるお口のトレーニングは、下記の記事を参照ください。

「子どもの口が弱っている!?親子でできるお口のトレーニング」|歯科医師会田の噛み合わせメディア~カムシル~

口腔機能発達トレーニングをする親子の画像|口腔機能発達不全症とは?徹底解説!|歯科医師会田の噛み合わせメディア-カムシル

口腔機能トレーニングは種類が多いので、自分にはどのトレーニングと治療が必要か、今後どんな治療がどの時期に必要かなどは、歯科医師などの専門家が診査・診断する領域です。

しかしながら、私が推奨しているトレーニングは実践してマイナスになることはないので、可能であればぜひご家庭で試してみてください。

口腔機能の発達に非常に重要な、舌の動きを中心としたトレーニング方法(MFT/筋機能療法)についても、今後またご紹介していきます。

口腔機能発達不全症の改善は「知ること」から!「カムシル」を活用ください

ここまで口腔機能発達不全症について説明してきましたが、いかがでしたか?

「うちの子に当てはまる!」と思う、または「子どもではなく自分に当てはまる…」と思った方もいらっしゃるかもしれません。

口腔機能に関する知識がまったくないと「少し違和感があるけれど、そのうち正常に育つだろう」「親である自分の歯が弱いから、しょうがない」「歯並びが少し変わってきた気がするけど、そんなに気にならないからいいや」など、見過ごしやすいものです。

歯科治療でもっとも重要なことは「何が問題で、何のために、どうすればよいのか」を、治療を受ける側(患者さん)と提供する側(歯科医師)の双方で、コミュニケーションを取って共有することです。具体的なイメージを共有し、コミュニケーションを深めるための武器は「情報」です。そのために、ぜひ当メディア「カムシル」をご活用いただけると幸いです。

口腔機能や噛み合わせなどについて不安なことがあれば、歯科医師 会田までお気軽にご相談ください。お問い合わせは公式LINEより受け付けております。

下記のページもご参考ください。
「子どもの口が弱っている!?親子でできるお口のトレーニング」|歯科医師会田の噛み合わせメディア~カムシル~

 

歯科医師 会田光一