2023年版!噛み合わせ作りに必要な「最新インプラント事情」

  • 2023.05.29
  • 歯の不調を治したい
  • 治療を繰り返している方へ

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今回は、普段の診療でも質問を受けることが多い「インプラント」について説明します。インプラントの基本的な知識、日本におけるインプラント治療の歩み、そして私が普段行っているインプラント治療について解説していきます。

※一部の歯科医師に対してやや辛口な意見がありますが、ご容赦ください。

インプラント治療とは

まずは、最低限知っておきたい、インプラントの一般的な知識を説明します。インプラント治療とは、歯を抜いたところに人工の歯根(インプラント)を埋め込み、その上に人工歯を装着する治療方法です。

【治療の流れ】

1.状態の悪い歯を抜いて、顎の骨や歯茎が回復するのを数ヶ月待ちます。

※最新の知見では、悪い歯を抜くと同時にインプラントを入れたほうが最大限自分の顎の骨や歯茎を温存できることが多いです。詳しくはこちら

2.歯科医師がレントゲンやCTなどの画像検査を行い、顎の骨が、歯根を埋め込める状態になっているか、歯周病の有無などを確認します。

3.歯茎を切開して骨に穴を開け、インプラントを埋め込みます。その後、骨とインプラントがしっかりと結合するまで、数ヶ月間待ちます。

4.結合が十分に固定されたら、人工歯を装着するための型取りを行い、人工歯を取り付けて治療が完了します。

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インプラント治療は、従来の治療法であるブリッジや入れ歯に比べて、見た目が自然ですし、食べ物を噛む力を回復させられるというメリットがあります。また、周囲の歯に負担をかけることもないため、口腔内の健康維持にも役立ちます

噛み合わせを大事にしている私の診療では、「歯を失ってしまった」「歯を抜かなければいけない」という状況になったときの、治療の第一選択は、インプラントになることが多いです。診療で噛み合わせを大事にする理由の一つに、噛む力をコントロールすることで、個々の歯を最大限長持ちさせる、という目的があります。

ブリッジは前後の歯を繋ぐので、どうしても、関係ない歯を削る上に負担をかけることになります。また、取り外し式の入れ歯では、噛める力は通常の1/4〜1/3程度になってしまい、やはり残りの歯に負担をかけてしまう状況は変わりません。

噛む力=咬合力を、自分の歯に代わって独立して支える方法は、現状、インプラント治療しかないと言えます。

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ただ、インプラント治療は費用が高額であったり、治療期間が長くなったりする場合もあります。また、顎の骨が十分にない場合は、骨を作る手術が必要となることもあります。そのため、インプラント治療を受ける前には、歯科医師と十分な相談を行い、リスクやメリットを理解した上で、治療を進めることが重要です。

インプラント治療の歴史

現代のインプラント治療は、1952年にスウェーデンのPer-Ingvar Brånemark(ペル・イングヴァール・ブローネマルク)博士によって開発された、とされています。当時、ブローネマルク博士は、骨と金属の接合について研究を行っており、偶然にも骨とチタンの接合が非常に強力であることを発見しました。

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Per-Ingvar Brånemark(ペル・イングヴァール・ブローネマルク)博士
出典:Wikipedia

ブローネマルク博士はその後、1965年に世界初のチタン製インプラント手術を行い、その成功によってインプラント治療が一般に知られるようになりました。1980年代に入ると、インプラント治療に関する研究が盛んに行われるようになり、さまざまな種類のインプラントが開発されました。また、インプラント治療の技術が進歩するにつれて、治療費用も徐々に下がっていきました。

現在、インプラント治療は、歯の欠損に対する代表的な治療法の一つとして、世界中で行われています。特に、欧米や日本などの先進国ではインプラント治療の需要が高まっています。

相次ぐ、インプラントのトラブルの報道

2011年に、独立行政法人 国民生活センターが「歯科インプラント治療に関わる問題」という見出しで報道発表を行い、全国の消費者生活情報ネットワークに寄せられた、インプラントに関連するトラブル相談をオープンにしました。

【参考】
「歯科インプラント治療思わぬ被害|独立行政法人 国民生活センター」(2023年4月に公表されたページです)
https://www.kokusen.go.jp/t_box/data/t_box-faq_qa2012_57.html

また、2012年には、テレビ番組『クローズアップ現代』(NHK)で「歯科インプラント トラブル急増の理由」という、センセーショナルなタイトルで報道が行われました。

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出典:「歯科インプラント トラブル急増の理由|クローズアップ現代|NHK」

内容も驚きで、全国の200の医療機関にアンケートを実施した結果、過去3年間で発生した重篤なインプラントのトラブル約500件において、発生理由の86%は「歯科医師の知識・技術レベルの不足」だった、というものでした。

メディアの主張としては、日本では歯科医師数が必要過多→競合するため歯科医院が経営困難→モラルのない歯科医師がインプラントで儲けようとする→技術不足でトラブルが発生→歯科医療業界への不信、というストーリーでした。

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出典:「日本口腔インプラント学会 これまでの50年 これからの50年:コロナ禍で見えてきた50年|国立研究開発法人 科学技術振興機構」(矢島安朝 著)内、『週刊ダイヤモンド』画像

これはちょうど、私が大学を卒業して、歯科業界を知り始めた時期でした。

確かに、1990年代〜2010年くらいまで、歯科業界では“インプラントバブル”が起きていました。私も診療のなかで、過去に他院でなされたと思われる、無茶な治療の跡をいろいろ診ました。当時のインプラント治療の情報源は、歯科医療メーカー主体のセミナー頼りで、歯科医師皆が、手探りで治療をしていた時代でもあったと思います。

現在は、そういった状況が大きく改善されていますが、いまだに、歯科医師の思い込みがトラブルのリスクを作っているのでは?と感じる症例もあるので、次の章でお話しします。

令和の今も起きているインプラントのトラブル

ここからは、少しセンシティブな内容になります。

個人的には、歯科医師の知識や技術が、過去のインプラント治療のやり方からアップデートされていないため、術式選択によりトラブルのリスクを上げてしまっていることが多いように感じています。

また、患者様には「安い・早い」だけに釣られず、歯に関する基本的な知識をつけた上で、「その治療は、自分が望む治療にもっとも近いか」を、歯科医師に適切に質問できるようになっていただきたいと思っています。

A.顎の神経麻痺のトラブル

長さのあるインプラントを入れる場合、神経や血管が走る「下歯槽管」を傷つけないよう注意が必要です。現在は、短いショートインプラントの術式が進化しており、無理なく安全な術式の選択が可能であるケースが多いです。しかし、一部の歯科医師はいまだに、長いインプラントが必要だと思い込んでいるようで、患者様の治療跡を確認すると、解剖学的なリスクを知りつつ、ギリギリのオペを行っていることが見受けられます。

「なぜ、その長さのインプラントが必要なのか?」――。この質問に端的に答えられない歯科医師には、要注意です。当たり前ですが、手術の内容にはすべて意味があって当然だからです。

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B.感染によるトラブル

インプラントの問題というより、不衛生な環境での治療や、骨補填材と呼ばれる異物を「入れなければいけない」と思い込んでいる歯科医師が多いために、感染によるトラブルが発生することが多いと思います。

骨補填材は自分の身体と違い、抵抗力がほとんどないため、感染を起こすと一気に広がりやすいです。

しかし、「骨補填材を入れる方法しか知らない」という医師には、使用しない選択はありません。もし、インプラントを検討しているときに「顎の骨が少ない」と言われたら、「骨補填材を使用しますか?どのようなリスクがありますか?他に方法はありますか?」と聞いてみましょう。これらについて、治療前に歯科医師から十分な説明がなされること、骨補填材を使わない術式も選択肢に入っていることが、大事であると考えています。

どんな治療にもメリット・デメリットがあるので、患者様には、すべてを知った上で治療法を選ぶ権利があります。

C.長い治療期間、肉体的負担、合併症リスク

患者様が何を望んでいるかより、歯科医師が治療を“ひとつの作品”としてどうしたいか、という思いが強くなっているのでは、と思わされることが多々あります。本当に必要なのか疑問に感じる治療が付帯し、手術回数や治療回数が増えることで、治療期間の延長や失敗リスクを上げているケースが見受けられます。

いまだに、歯を1本作るのに1年以上の時間をかけている歯科医師がいる状況に、驚くことがあります。(事故や病気などで、本当にそうせざるを得ない方もいらっしゃることは理解しています)

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出典:「有吉弘行 インプラント治療の経験語る『けっこう大変よ。面倒くさい』|スポニチ」

患者様は、医師の“アートの額縁”ではありません。

私自身も、過去に、自分の思い込みで患者様に負担をかけてしまっていたことを反省しています。今は、結果が良いなかで、出来るだけシンプルな処置を心がけております。

自分の力量を考慮して、自分の家族に提供したいと思えるような治療を、どんな患者様にも提供すること。そして、もし自分の力量を超えているのであれば、適切な医療機関や医師を紹介することが重要だと思っています。

必要以上の負担を負わないためにも、ぜひ患者様から「何度メスを入れるのか?」「治療期間は最低でどの程度か?」「もし上手くいなかないと、どの程度になるのか?」といったことを質問いただき、納得してから治療を受けてほしいと思います。

2023年 患者様目線でのインプラント治療が増える転換期がきている!?

インプラントの形状、材質、器材の進化に伴い、現在は、治療期間も身体への負担も少ない、よりシンプルなインプラント治療が可能です。ただし、それができるのは、その情報を掴んで習得している歯科医師だけです。

私も、幸いにして早い段階でそういった情報をキャッチし、すぐに今までの術式を捨てて切り替えた一人です。まるで、ガラケーからスマホに変わるような衝撃でした。

しかし、スマホと違い人体に直接影響する医療であるがゆえ、新しい術式は数年間、経過をしっかり追われ、ようやく今、広く拡散する時期に入りました。歯科医師をはじめ、一般の方に浸透するまでまだ時間はかかりますが、あまり進歩のなかったインプラント治療に、パラダイムシフトが来ていると感じています。

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インプラント治療は、どのように変わったか

昔は、とりあえず悪い歯を抜いて、数ヶ月経ってからインプラントを入れることが常識でした。しかし、日本人の顎の骨は薄いため、歯を抜くと同時に吸収されてしまい、インプラントを入れる頃には、追加で「骨を作る処置」が必要になり、腫れ・痛み・失敗リスクを上げる要因となっていました。

しかし現在は、どうしても歯を抜かなければいけないときは、事前にCT写真から徹底したシミュレーションを行い、歯を抜くと同時にインプラントを入れることで、顎の骨の吸収を、最大限抑えています。「抜歯即時治療」や「1dayインプラント治療」と呼ばれています。

また、できるだけ、インプラントを入れたその日に仮歯を入れています。「即時負荷」や「即時荷重」と呼びます。患者様は誰しも、歯が早く元通りになることを望んでいます。その希望をかなえつつ、周囲の歯が動かないように、噛み合わせの安定を図るのです。

そしてもう一つ、上顎の骨が薄い日本人は、インプラント治療を検討するときに、鼻の横の空洞に骨補填材を詰め込む治療「サイナスリフト」をするのが第一選択でした。サイナスリフトは、場合によっては顔が交通事故のように腫れる、手術時に予期せぬ出血トラブルで大変なことになる、異物を入れるので感染リスクがあるなど、なかなか大変な処置です。

しかし、最新の治療方法では、太めのインプラントを特殊なドリルを使って埋入することにより、こちらの術式はほぼ不要です。腫れない、出血トラブルがない、感染リスクがないといった、患者様も術者も安心の歯科医療ができるようになりました。

私も「あんなに一生懸命勉強して患者様に強いていた治療は、何だったんだ…」と思い返しながら、器具を封印しました。もちろん、中には大掛かりな手術が必要な方も一定数いることは承知しています。

私が懸念しているのは、必要のない患者様にまで大袈裟な処置が提供されることで、患者様は困り、インプラントにもネガティブなイメージがついてしまうことで、患者様と歯科医療従事者の双方にマイナスになることです。このような不幸をできるだけ減らしたい一心で、私はこのサイトで情報発信をしています。

写真で見る、現在のインプラント治療

Takanawa Clinic「世界で一番優しいインプラントを目指して」より引用

① 右上の前歯が割れて膿んでいる。この歯を抜いてインプラントを入れます。
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② 被せ物と土台を除去した状態です。
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③ 周囲を傷つけず、丁寧に抜歯しました。
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④ しっかり固定がとれるようにインプラントを入れる。術前の計画と、高度な技術が必要となります。
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⑤ 手術当日は仮歯が入ります。この方法だと、ほとんど腫れず、手術をしたように見えません。
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⑥ 3ヶ月後、歯ぐきが綺麗に治っています。この状態で型取りをして、最終の歯を作ります。
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⑦ 最終の歯が入ったところ。とても自然な仕上がりで、どこがインプラントか分からないと思います。歯ぐきの健康状態も良好です。
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インプラント治療に起こった“パラダイムシフト”

患者様目線で考えると、インプラント治療は何年も停滞していたように感じます。それがここに来て、一気にパラダイムシフトが起こっている状況です。

誰でも、「簡単に、短期間で、安全・低侵襲な治療を受けたい」と思うでしょう。私も怖がりなので、そうです(笑)。最近は、海外からの患者様も、最新の1dayインプラントを求めて来院くださるようになったり、他院で「治療は難しい」と断られてしまった患者様も、ご相談にいらっしゃったりします。

インプラント治療について説明させていただくと、皆さん「なんで他の歯科医院では大変な手術を提案されたのに、そんな簡単な処置でよいの?!」と、驚かれます。ガラケーとスマホの違いのように、インプラントも、術式が違えばそれだけ異なるので当然です。

セカンドオピニオンも随時受付けているので、お困りの際は何かの参考に、ぜひご相談ください。

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