「歯を抜きましょう」と言われたら必見!抜歯前には必ず“3つの確認“

  • 2023.11.19
  • 歯の不調を治したい

歯を抜く前にしてほしい3つのこと

こんにちは、歯科医師の会田です。
このメディアでは、生涯に渡ってしっかり噛めることを目的とした、有益な情報を発信しています。

今回のテーマは「歯を抜く前に必ずしてほしい3つのこと」です。

これは、乳歯ではなく、大人の歯(永久歯)についてです。

病気やトラブルにより、歯医者さんから「歯を抜きましょう」と言われることは、しばしばあると思います。ただ、患者様側に歯科の知識が何もないと、「本来なら残せる歯を抜かれてしまった」とか「安易に抜いてしまったために、後の処置が大変になった」など、後悔することが非常に多いのも事実。

そこで今回は、歯を抜く前に最低限確認してほしい

1.CTによる診査
2.歯が割れていないかチェック
3.歯を抜いた後の方針決め

これら3つのことについて解説します。

1.CTによる診査

CT撮影をすることで、問題となっている歯の周囲の骨の状態を、3次元的に確認できます。骨の状態が分かると、どこから病気が広がり、どこに原因がありそうか、もしこのまま歯を抜くと顎の骨にどのような変化が起きそうか、といったことが予想できます。

歯を残せる場合、CTの画像から病状を正確に把握できるため、歯を残すための作戦立てが可能になります。これが2次元の写真のみだと、病状の広がりが平面的にしか分かりません。そのため、適切なアプローチ方法を判断できず、残せる歯でも抜かなければいけないと診断されたり、十分な結果が得られない治療方法を選択されたりする可能性があります。

 

3次元的に状態をチェックして、なんとか歯が残せる方法がないか模索します

逆に、本当に状態が悪くて歯を残せない場合でも、CT画像は非常に重要です。特に、歯を抜いた後にインプラント埋入を考えている場合に顕著です。

過去の記事「2023年版!噛み合わせ作りに必要な『最新インプラント事情」」でも紹介しましたが、最近のインプラントは、自分の顎の骨を極力温存する負担の少ない治療が可能です。「抜歯即時インプラント治療」と呼ばれるように、悪い歯を抜くのと同時にインプラントを固定させることで、顎の骨の吸収を抑え、後々、骨を補う大掛かりな手術を受けなくて済みます。

しかしそのためには、歯を抜いたあとにどの位置、どの方向に、どのインプラントを、どういう術式で入れると良いか、事前にCT画像から診断しておく必要があるのです。

歯を抜く前にCT撮影をすることで、歯を残せる可能性を最大化し、残せないときも最善の治療方法を選択できるようになります。歯を残すにしても抜くにしても、CT撮影には、非常に重要な意味があります。

CTも撮らないで「とりあえず悪い歯は抜きましょう」という提案には、お気をつけください。

2.歯が割れていないかチェック

歯科治療が進歩してきた中でも、なかなか治せないのが「歯が割れてしまったケース」です。

ここでいう「歯が割れた」というのは、歯にバキッと縦割れが起きて、歯の根の方まで広がっている状態を指します。特殊な接着材料を用いて治す方法もあるにはありますが、適応症が限られることから、多くのケースではやむを得ず抜歯になります。

しかし、逆をいうと、割れてさえいなければ治せる可能性が高いのです(もちろん例外はあります)。

例えば、重度の歯周病になって歯の周りの骨が溶けたとしても、今は再生治療という方法があります。また、歯の根に細菌が入って感染し、骨が溶けてしまっても、感染除去さえ出来れば自然治癒が見込めます。さらに、虫歯で歯が歯ぐきに埋もれてしまっても、それを引っ張り出すという治療方法もあります。

つまり、歯が割れてさえいなければ、治療の“引き出し”はさまざまあり、歯を抜かずに残せる可能性が高いのです。

 

歯が割れてしまっているレントゲン画像

ですが、ここで考えなければいけないことが1つ。

再生治療が出来ない歯科医師の診断は、どうなるでしょうか?歯の根の治療が苦手な歯科医師の診断は?歯を引っ張り出すという矯正治療をしない先生だったら?

事実として、担当医が持つ治療法の引き出しによっては、抜歯宣言をされてしまうことは仕方がないのかもしれません。ただ、みなさんに知っていただきたいのは、歯が割れていなければ、多くの場合は治せる見込みがあるということです。抜歯の可能性が出てきたら、歯が割れていないかどうかだけは、必ず確認しておきましょう。

もし、歯が割れていないのに抜かないとダメと言われ、納得できない状況であれば、セカンドオピニオンを求めて別の歯科医院へ行ってみることも一案だと思います。

3.歯を抜いた後の方針決め

これが一番重要です。

やむを得ず歯を抜かなければいけない状況になったとき、「その後どうするか」を必ず決めておきましょう。歯を抜いた後はそのままにするか?歯を補うためにインプラントを使うか?ブリッジにするか?入れ歯にするか?

そのままにするのはデメリットも多いので、選択する方は少ないと思います。おそらく多くの方が、何かしらの方法で歯を補うのではないでしょうか。入れ歯やブリッジにする場合、事前に方針を決めておくことで、歯科医院側で仮の義歯を用意出来ることもあります。そうすると、治療期間中に噛めない・見た目が悪いという問題を回避できます。

ただ、それ以上に、プロの立場から重要性をお伝えしなければいけないのは、「インプラント治療をするかどうかは、歯を抜く前に決めておいた方がメリットが大きい」ということです。

 

歯周病により、過去に治療したインプラントと自分の歯の周りの骨が溶けている状態

悪い部分を除去したと同時にインプラント治療をすることで、周囲の組織を温存して簡潔な処置で済ませた状態

現代の歯科治療では、失った歯を補う手段としては、その確実性・快適性・負担能力などの観点からインプラント治療が第一選択になることが多いです。

しかし、インプラント治療は、歯を抜く前に方針が決まっていたかどうかで、手術内容が大きく変わってしまいます。そのことを知っている方は、まだ多くありません。

安易に歯を抜いてしまうと、顎の骨が吸収してしまい、いざインプラントを入れようとしたときに、支えとなる顎の骨が足りず、大掛かりな手術が必要になることがあります。そうすると、1本の歯を補うために1年近い時間、追加の手術代、腫れや痛みなどの身体的負担といった、さまざまなデメリットが生じてしまいます。

逆に、事前に治療方針が決まっていて、CTでの診断がしっかり出来ていれば、多くのケースでは悪い歯を抜くのと同時にインプラントを入れることができます。すると、すぐにインプラントの歯が機能することで、顎の骨の吸収を抑えることが出来ます。人間の身体は、使っていない部分は衰えますが、機能しているところは維持されるのです。これで、余計な治療時間、費用、肉体的な負担を回避できるわけです。

何事も、事前のゴール設定がとても大事ですね。

「その抜歯、本当に必要?」迷ったらセカンドオピニオンへ

私は、何でもかんでも、無理に歯を残すことが正義だとは考えていません。

最新の論文でも、軽度の歯周病の歯は残しても問題ないが、重度の歯周病の歯を残すことは認知症の進行を早める可能性がある、といった報告があります。

「Associations of Dental Health With the Progression of Hippocampal Atrophy in Community-Dwelling Individuals: The Ohasama Study Neurology」(July 5, 2023)

 ただ、歯を抜かなければいけない状況になったときには、上記の3つのポイントは、ぜひ押さえておいてください。歯を残せる可能性を見出せるだけでなく、残せなかったときも、最良の治療が受けられる可能性が高まるためです。

それでも歯科医師の説明に不安があれば、遠慮せずセカンドオピニオンを受けることをおすすめします。

私の個人的な感覚ですが、日本では、歯の根の適切な治療を受けられず、安易に歯を抜かれてしまう方が20〜50代に多いと感じています。歯の根の感染除去治療は保険点数が低く、どこの歯科医院でも十分な治療を受けにくい、という環境要因によるのかもしれません。ただ、きちんと治療をすれば治せるにも関わらず、若い世代に安易に抜歯宣告をしている歯科医師がいることには、心が痛みます。

「いつも通っている歯科医院で『歯を抜いてインプラントにしましょう』と言われたので、ほかの治療方法で解決できないか相談に来ました」というケースは、非常に多いです。

ぜひ皆さんも歯科の知識をつけて、歯科医院や医師を選んでいただけたら幸いです。

抜歯やインプラントなどについて不安なことがあれば、歯科医師 会田までお気軽にご相談ください。お問い合わせは公式LINEより受け付けております。

 

下記のページもご参考ください。
「2023年版!噛み合わせ作りに必要な『最新インプラント事情」」|歯科医師会田の噛み合わせメディア〜カムシル〜